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Among the borrowed ideas by which he spread his barbarism was that of the public arena, in which, by exhibitions of manly and horrible courage, the minds of his subjects were refined and cultured.

But even here the tremendous and barbaric fancy showed itself. The arena of the king was built not to give the people an opportunity of hearing the last words of dying soldiers, nor to allow them to view the inevitable end of a conflict between religious opinions and hungry jaws, but for purposes far more useful in widening and developing the mental energies of the people. This vast arena was an agent of poetic justice, in which crime was punished, or virtue rewarded, by the commands of an impartial and incorruptible chance.

 

(注)

borrowed:採用された  arena:闘技場  manly:男らしい 

the minds of his subjects:彼が自分の課題(?)としていることへの関心(?)→◎訂正「subject」には「臣民」の意味があった。したがって、「彼の臣民たちの心」と訂正する。お恥ずかしい。 

hungry jaws:ライオンなどの獰猛な獣の顎 *かつて、キリスト教徒がローマの闘技場でライオンに与えられたことをイメージしているのだろう。 inevitable:不可避の agent:代行者 impartial:公平な  incorruptible:腐敗しない、買収されない  *「impartial and incorruptible chance」が何であるかが、この話のキモのはずである。

 

[試訳] 

 

 

彼に採用されたアイデアの数々によって、彼はその野蛮性を撒き散らしたのだが、その中には公共の闘技場があって、そこで人々は男らしさや恐るべき勇気を観衆に見せ、そしてそれによって王の臣民たちの心は洗練され陶冶されるのであった。

だが、ここにおいてすら、王の巨大で野蛮な夢想が姿を見せていた。王の闘技場は、死に行く兵士の最後の言葉を人々に聞かせる機会を与えるためや、宗教的意見と飢えた顎の争闘の不可避の結末を観衆に見せるためではなく、もっと有益な目的、すなわち人々の精神的な活力を拡大し向上させるために建てられたのであった。この広大な闘技場は詩的な公正さの代行者であり、ここには、偏りもなく買収されることもない機会があり、その裁定によって罪は罰せられ、美徳は報酬を与えられたのである。

 

 




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「女か虎か」完全版

 

The Lady, or The Tiger ?  

                                   FRANK STOCKTON

 

In the very olden time there lived a half-barbaric king. He was a man of tremendous fancy, and, also, of an authority so irresistible that, at his will, he turned his varied fancies in fact. He was greatly given to meditating with himself ; and when he and himself agreed upon anything, the thing was done. So long as all things moved in their appointed course, he was smooth and gentle ; but if there was a little difficulty and something was not quite right, he was smoother and more gentle still, for nothing pleased him so much as to make the crooked straight, and crush down uneven places.

 

*さて、今日から「女か虎か」で翻訳練習をするが、私にとってはなかなか難しい文章だ。まず、1文1文が長すぎて、意味がつかみにくいし、どうやらひねくれたユーモアがこめられた文章のように思える。たとえば、この段落の最後の部分など。「命じた物事がうまくいっていると、この王様は上機嫌だが、あまりうまくいかないと」の後、不機嫌になるのかと思うと、「いっそう上機嫌になった」と来る。(私の誤読でなければだが)……やっかいな文章のようだが、まあ、難しいからこそ楽しいとでも思うことにしよう。

今回のシリーズでは、私の試訳も毎回付けることにする。原書には、まったく注が無いので、辞書を引いてもよく分からないところは、適当に訳するつもりである。

 

(注)

olden:古語・詩語で「昔の、古い」の意味     half-barbaric:半野蛮の

a man of tremendous fancy:巨大な空想力を持った男(ひどく夢想的な男)

meditating:もくろむ、企てる、熟考する、瞑想する    so long as:~である限り

smooth:穏やかな     crooked:ねじ曲がった 

(研究)

for nothing pleased him so much as to make the crooked straight, and crush down uneven places.

・全体の中心構造は「~ほど彼を楽しませるものはなかった(からである)」だろうが、「to make crooked straight」は、「曲がったものをまっすぐにすること」か。「and」以下も「彼を楽しませるもの」の追加分、ということだろうか。とすれば、この両者は似たような趣味嗜好を表すものだろうから、「and」以下は「高さの異なる場所を壊して平らにする」というようなことだろうか。つまり、ある種の人間にあるような、シンメトリカルな構造や均整への好みかと思われる。この王様には、偏執的な気質がありそうだ。

 

[試訳]

 

遠い遠い昔、ある半野蛮な王がいた。彼は巨大な夢想を持った男で、また誰も逆らえぬ権力者であったから、彼は自分が望むままにその様々な夢想を実現した。彼は自分自身の夢想の世界に耽り、彼が自分でよしと認めたことは何でも実行された。彼の命じたことが適切に行われれば、彼は穏やかで優しかった。しかし、仮にちょっとした困難や非常に不適切な物事があった場合でも、彼はいっそう穏やかで優しかった。というのは、曲がったものを真っ直ぐにし、不揃いのものを平らにすることくらい彼を楽しませるものは無かったからである。

 





私は椎名高志の漫画はだいたい好きなのだが、彼の最長編の「絶対可憐チルドレン」はあまり面白いと思わない。まあ、低年齢層向けに書いている部分もあるからとは言え、何か基本的なコンセプトを間違ったままで連載をスタートさせてしまったのではないか、という気がする。
今さらではあるが、どこが間違っていたのか、少し考察してみる。

アニメの最初の数回を見るかぎり、「話が全体にちゃちいなあ」という印象を受けたのだが、それはどのあたりか、明確ではない。まあ、要するに、超能力者に起因する危機を、超能力で解決する、というのが毎回の主筋なのだが、これで長編にすると、マンネリの極致になるのではないか、ということかと思う。実際、最初の3回ほどで私は飽きたのである。しかも、最初から「超能力を制限するマシン(超能力リミッター)」の存在が明らかで、その強大化されたものを使えば超能力者は無能になり、敵との闘いに不利になるわけで、せいぜいがそのマシンを戦いの綾に使う程度しかバリエーションは考えられない。
とすれば、この手の話を作る場合は、超能力の存在を徐々に出していき、超能力という存在が持つ危険性や周囲との軋轢を細心にドラマ化していくしか長編化する方法は無いのではないか。最初から「超能力が珍しくない世界」として描いたら、読者や視聴者は「あっそう」で終わりになるように思う。そして、超能力バトルを1,2回見たら、もう飽きるだろう。実際、私はそうだった。
いくら、椎名高志的なギャグをちりばめても、本筋が真面目な性質の作品であっては、これは持たないだろう。荒唐無稽なものをドラマ化するには、視聴者の心に強く訴えるフック(ある種のリアリティ)が必要なのである。

荒唐無稽なもののドラマ化にこそ細部のリアリティが必要。

その2

 

 関根金造監督はベンチでお茶を飲みながら居眠りばかりしていたわけではない。試合を眺めながら、自軍選手の能力や性格、勝負強いか弱いか、何が得意で何が苦手かを観察していたのである。選手とは野菜のようなもので、瓜や茄子がトマトやカボチャにはならないが、丹精こめて育てれば大きく育ち、それなりに美味い野菜になる。

 監督の見た所では、現在のチーム力は、昨年の成績が示している通りであり、じたばたしても始まらない。しかし、昨年のドラフト及びドラフト外で取った選手の中には、磨けば光る素材が多いと睨んでいた。中でも、ドラフト1位の荒野拓と2位の中矢速人、それに4位の田畑耕作の3人は、かなりの潜在力を持っているようである。2位の中矢は外野手で、大学野球でそれなりに名が売れていたが、荒野と田畑はまったくの無名選手である。これはスカウト部長の倉の大ヒットだった。彼は自分の足で見て回るだけではなく、インターネットを駆使して各地の有望選手情報を集め、勘がひらめいた場合は自分で見に行ってドラフト候補を決めたのである。荒野は北海道出身の投手で、野球経験はまだ少ないが150キロ近い剛速球を投げる。甲子園大会は予選2回戦で負けたために、全国的な知名度はゼロである。田畑は南の果ての、八重山の出身で、これも同じく甲子園に出ていないが、県大会では3回戦まで進み、打率8割、本塁打3本を放っている。もっとも、予選でその程度の成績を残す選手は珍しくないが、彼の場合は、肩も良くて、通算の盗塁阻止率が(それがどれほど正確な数字かはわからないが)9割以上であるということだ。野球マンガなら、一度も盗塁をされたことがないという捕手などが登場したりするが、盗塁というものは、半分は投手の責任であり、100パーセントの盗塁阻止率というのはありえない。高校生なら7割以上の阻止率ならば抜群の肩であり、プロなら4割程度でも十分に合格ラインである。それよりも、主将としてチームを引っ張り、出ると負けの離島チームを3回戦まで進めた根性が、買いだと関根は考えた。

 この3人以外にも楽しみな選手が多く、時間をかければこのチームは案外いいチームになりそうだ、と関根は考えていたが、来年再来年、自分がこのチームの監督でいられるかどうかは別問題である。関根はそれほど監督の座に執着はしていなかったが、このチームの行方を自分の目で見てみたいという気持ちはあった。

 一軍にもいい選手は数人いるが、数人では野球はできない。レギュラー野手8人と投手陣の粒がある程度揃わないと、野球にはならないのである。現在は、先発投手陣では藤井秀介、伊藤和明、ベバリンの3人しか一軍の能力を持った選手はいない。野手陣ではラミレスとベッツの二人以外では外野手の因幡一宏くらいが一軍レベルで、あとは他球団なら二軍というレベルの選手だけだ。しかし、この秋の入団テストで面白そうな選手が何人か入っていた。

 まず筆頭が、牙武という外野手である。高校卒業後、ノンプロの野球で3年を過ごし、今年の都市対抗試合で頭角を現した選手である。外野手としては守備が少し雑だが、足は速く、肩も強い。それに、何よりも打撃に迫力がある。三振も多そうだが、長打力は本物のようだ。名前の荒々しさとはうらはらに、顔は外人の血が混じっているような感じのハンサムで、ロシア人風の短い顎鬚がギャングの幹部めいた感じを与えている。そして、もう一人が、北海オーシャンズを整理された投手の東海林誠人である。球速が130キロ台という、球の遅さがプロレベルではないとして、一軍に上がることもなく首になったようだが、低めに集まるコントロールの良さと、打者に的を絞らせない頭の良さは、案外拾い物ではないかと思われた。

 投球というものは不思議なものである。野球マンガの好きな子供は、160キロの速球を投げれば誰にも打たれないと思いこんでいるが、日本最速の記録を持っている横浜シティボーイズのクレーン投手の防御率は3点台である。救援投手の防御率は低いのが普通だから、3点台というのは良くない数字だ。つまり、160キロの速球を投げても、プロは打つのである。160キロが170キロになっても、少し練習すれば打てるだろう。確かに、速球は、一番打ちにくい球ではある。しかし、速球一本槍で抑えられるほどプロは甘くない。大昔にあったヤクルトという球団の安田投手や、阪急ブレーブスの星野投手などのストレートは130キロ台であった。高校生でも140キロを投げる投手は珍しくないのに、130キロのボールしか投げきれない彼らが、なぜプロで好成績を残したのか。それは、投球術の有無である。つまり、頭のいい投手なら、プロで生き残ることはできるということだ。その反対に、150キロ台の速球を投げきれても、頭の悪い投手は生き残れない。

 投球にくらべると、打撃のほうが、まだ肉体的才能の関わる余地が大きいようだ。簡単な話、才能の無い人間は、ホームランは絶対に打てない。プロの投げるスピードボールにバットを当てることでさえ至難の業だが、しかもそれをバットに乗せて45度の角度で弾き返し、100メートルの彼方にあるフェンスを越えさせることができる人間は、プロでも限られている。もちろん、年間に1本か2本のまぐれ当たりは、プロレベルの肉体能力があれば可能性はあるが、それ以上に打つのは、能力によるしかない。その能力は、普通人には絶対に無いのである。だから、打撃の神様テッド・ウィリアムスも、「野球で一番難しいのがバッティングだ」と言っているのである。

例によって、冒頭部分だけを書いて、止めた作品だが、今読んでみると少し面白いので載せておく。会話も出来事の描写も何もなく、私がいかに小説の才能が無いかよく分かる冒頭部分だが、野球ネタの雑談としてなら読めるのではないか。
とりあえず、2回に分けて載せる。


人物メモ

 

① 関根金造(アンツの監督。爺さんである。)

② 須藤完(寮長兼二軍監督。オヤジである。)

③ クリート・ロビンソン(二軍野手コーチ。守備の神様である。)

④ ビル・テリー(二軍打撃コーチ。打撃の神様である。)

⑤ レフティ・グローバル・アレキサンダー(二軍投手コーチ。ピッチングの神様である。)

⑥ 田畑耕作(キャッチャー。八重山農林高校卒。18歳。ドラフト4位。山出しの田舎者だが、野球頭脳は抜群。捕手体型で、鈍足だが打撃も守備もいい。)

⑦ 荒野拓(投手。18歳。北海高校卒。ドラフト1位。火のような速球を投げるが、投球術は未完成。野球経験が少なく、甲子園には出ていないため、知名度はない。)

⑧ 馬場一夫(一塁手。32歳。大卒。守備は名人だが、打力が弱く、一軍に定着できない。性格はおおらかで、馬のような顔をしている。)

⑨ 野原二郎(二塁手。埼玉学園卒。18歳。素質はあるが、気が弱く、チャンスで打てない。守備は名人級。ドラフト3位。)

⑩ 山原遊介(遊撃手。北部農林高校卒。18歳。俊敏だがやや非力。当てるのは上手い。守備もなかなか。ドラフト5位。)

⑪ 牛岡三蔵(三塁手。24歳。大卒。2年目。見かけはもっさりしているが、守備は天才。打撃は弱い。ロビンソンコーチのお気に入り。)

⑫ 中矢速人(中堅手。23歳。大卒。ドラフト2位。足は韋駄天。守備も抜群だが、打撃は未完成。性格は悪くはないが、やや高慢で己惚れ屋。顔はいい。)

⑬ 左木善(左翼手。33歳。強打者だが鈍足で守備は下手。1軍通算・265、75本塁打。無口。)

⑭ 左右田左右太(右翼手。26歳。大卒4年目。スイッチヒッターで守備も内外野できる。長打力は無い。お調子者で、ポカもときどきある。顔は井出らっきょに似ている)

⑮ 山並敬作(控え選手。捕手31歳。二軍の主的存在。弱肩。性格はいいが、強引なところがある。度量は大きい。将来の二軍監督候補。)

⑯ 城之内和也(投手。22歳。2軍のエース。性格も制球力も悪い。相手によって気を抜く癖がある。)

⑰ 桜木健太(投手。23歳。球威はあるが、頭が悪い。)

⑱ 早川昇(投手。19歳。球は遅いが投球術を心得ている。)

⑲ 高井勇作(投手。21歳。左腕。球威は抜群だが、自らピンチを招く癖がある。)

⑳ 難波利夫(二塁手。24歳。積極性が無く、好機にはまったく打てない。)

 

球団

セリーグ

① 名古屋ドランクス(中落合監督)

② 東京ギガンテス(保利監督)

③ 大阪ウォーリアーズ(藤山監督)

④ 広島オイスターズ(山本山監督)

⑤ 横浜シティボーイズ(金星野監督)

     新宿アンツ(関根監督)

パリーグ

① 北海オーシャンズ(ヘルマン監督)

② 埼玉リアルエステイツ(糸鵜監督)

③ 南海パイレーツ(皇監督)

④ 千葉マリナーズ(S・バランタイン監督)

⑤ 神戸コンドルズ(名嘉村監督)

⑥ 東北パラダイス(之牟羅監督)

 

 

 

 

 

 

    『 のんびり行こうぜ 』       

 

○この小説は実在の人物や組織とはまったく関係はありません。モデルとなった人物や組織もありません。名前などが似ていても、それは偶然の一致にすぎません。

 

その一

 

プロ野球セリーグには東京に2球団あって、その一つは老舗の名球団、東京ギガンテスである。ここは保守系新聞の押売新聞を母体にしていて、テレビ局とのつながりもあるため、全国的知名度があり、また資金力に飽かせて有力選手を掻き集め、好成績を残してきた結果、日本一の人気球団となった。現在は昔ほどの成績は残していないが、人気だけはまだ保っている。

セリーグのもう一つの在京球団が新宿アンツである。球団本拠地が新宿だから新宿というチーム名になったのだが、いかにもスケールの小さい名前だ。昔存在したジャイアンツとかいう名球団にあやかってアンツと名づけたそうだが、巨人たちと蟻んこたちでは大違いである。かつては清涼飲料水の会社が球団を所有していたが、経営不振から経営権をアグリビジネスとかいうわけのわからない仕事をしているドン・ビャクショーという会社に譲り渡した。その際、高給取りの有望選手は大体金銭トレードされ、ほとんどはその名前にふさわしい蟻んこレベルの選手しか残っていない。

新球団としてスタートした昨年の球団成績は27勝115敗3分けである。このチームが27勝もしたのは奇跡のようだが、古いチームに愛着があって残った実力派選手も数人はおり、他球団に行けばおそらく10勝以上は堅い、藤井、伊藤などの有力投手の頑張りと、外人にしては比較的給料が安いということで継続雇用となったラミレス、ベバリン、ベッツなどの働きで27勝の成績は残ったのである。しかし、観客とすれば、野球見物に行っても5回に4回は負け試合であり、しかもその負け方が、0対10とか1対20とかいうラグビースコアでは、まるで相手チームの打撃練習、投球練習を金を出して見ているようなものである。当然、真面目な観客の数は激減したが、世の中は奇妙なもので、こうしたヘボチームのどたばたした試合が面白いと、寄席かバラエティショーでも見る気分で鑑賞する通人もおり、それに何しろチケット代が内野席でも2000円、外野席なら1000円と格安だったので、本拠地の新宿球場には、ナイターを夕涼みの場やデイトスポットとして利用する人間も多く、1年目の経営は(高額選手がいないこともあり)黒字になったのであった。

ドン・ビャクショーのオーナー大田田吾作は、浮いた金で千葉北部の山中にファームを作り、そこを文字通りの農場と二軍練習所にすることにした。若手選手は、そこで農作業の合間に野球の練習をするわけである。なるほど、ろくに一軍の試合にも出られない若手選手の有効利用と言えばそうだし、彼等の体位向上には役立つだろうが、野球の技術アップにはあまり役立ちそうも無いシステムである。この計画によって、若手選手の半分は自主退団した。何が悲しくて、俺のようなシチィボーイが千葉の山奥で豚を飼い、肥タゴをかつがねばならんのか、というわけだ。しかし、大田田吾作氏はなかなかの人物で、最初から、雇った人間は(金銭トレードは別として)解雇はしない、と言明していた。野球をやめても自分の企業(ほとんどが百姓仕事だが)で使ってやる、というわけだ。現在のように不安な雇用状況の時代では、これはなかなか立派な方針だとも言える。

そのせいか、この年の秋のドラフトで指名された選手のうち1位の中村宏典三塁手を除いて、2位から5位までは入団を承諾した。今その名前を書いても怠惰な読者はどうせ覚えていてくれないだろうし、作者も覚えられないから、名前は省いておく。

それに、他球団を解雇された選手がアンツの入団テストに思いがけず沢山集まった。その中には十分に一軍で使えそうな選手も何人かいたのである。であるから、少なくとも人数的には、自主退団した若手選手の穴を埋めるだけの選手は揃ったと言える。

アンツの監督は、関根金造という爺さんで、現役時代は投手も内野手も外野手もやった器用な人間だが、評論家生活が長かったせいか、自軍チームに対しても評論家的な目で眺めてしまい、あまり勝利への意欲は無かった。だからこそ、この悲惨なチーム成績でも発狂せずに無事に一年をやり通せたのだろう。そういう意味では監督としてはベストの人選だったかもしれない。そもそも彼はベンチにいてもほとんど指令らしい指令は出さず、選手たちに、好きにやってこい、と言うだけであった。「野球など、やっているうちに覚えるさ」というわけだ。試合中に時々呟く言葉には、中々含蓄のある言葉もあったのだが、なにしろ選手がそれを理解できるレベルではなかったので、彼はただのボケ老人と大方の選手からは思われていた。「二時間ベンチに坐ってお茶を飲んでいるだけで金が貰えるのだから、楽な商売さ」と陰口を言う選手もいたが、好々爺然とし、余計な命令をしないこの監督を大多数の選手は好んでいたようだ。もちろん、観客の野次や罵倒に耐え切れず、もっと真面目な試合がしたいと望んでいる真面目な選手も何人かはいた。そうした選手は、何の指令も出さない監督に不満を持っていたが、では監督が指令を出したとして、選手がそれを実行できるかと問われたら、おそらく言葉に詰まるだろう。

ともあれ、新宿アンツはファンからはともかく、敵(他球団)からは、苛酷なペナントレースの中の一服の清涼剤として愛されていた。選手たちはアンツとの対戦を心待ちにし、野手たちはその3連戦で少なくともヒットを5、6本、あわよくばホームランを1、2本打とうと考え、先発投手は完封勝利で防御率がどれだけ向上するか獲らぬ狸の皮算用をした。面白くないのは、出番がおそらくない救援投手や代打陣だけだ。アンツに負けるということなどまず考えられなかったから、首位を争うチームにとっては、アンツとの3連戦で一つでも負けることなどあってはならないことで、初年度の最終3連戦でギガンテスがアンツに1勝2敗と負け越し、そのためにペナントを落とした監督の原田は哀れにも更迭されてしまったくらいである。この原田監督は、その甘いマスクから高校野球のプリンスと呼ばれ、東都大学野球では18本の本塁打を打ち(野球に無知な読者には、これがどのくらい素晴らしい数字かわからないだろうが、大学野球は試合数が少ないので、通算で10本以上の本塁打を打っていればかなりの強打者なのである。とはいえ、東都大学の通算本塁打記録は、プロ入り後はほとんど打者としての数字は残せず守備の人になった小橋遊撃手の23本であるところが皮肉だが。)鳴り物入りでギガンテス入りしたものの、その前の時代に黄金時代を築いた皇一塁手や中嶋三塁手と常に比較され、中々の成績を残しながらいつも周囲から不満を持たれていたという、幸運なのか不運なのかよく分からない人物である。

どうも脱線が多くて申し訳ない。話を先に進める前に、現在のプロ野球の状況を簡単に説明しておこう。昨年のペナントレースの覇者はセリーグが「俺流野球」の中落合監督率いる名古屋ドランクスで、パリーグがお雇い外国人監督のヘルマン監督率いる北海オーシャンズである。ドランクやオーシャンに「ズ」をつけていいかどうかわからないが、とにかくそういう名前のチームである。特にパリーグは、年間の試合での1位がそのまま優勝とはならず、2位と3位の勝者が1位と戦い、その勝者となってやっとパリーグ優勝となるわけのわからないシステムで、オーシャンズも年間3位の順位でありながら勝ち上がってパリーグを制し、その余勢を駆って日本シリーズまで制覇したという幸運さであった。つまり実質的にはパリーグの3位チームが日本一になってしまったのであるが、驚いたことにこの馬鹿げたシステムが来年度からセリーグでも採用されることが決定していた。要するに、通常ならペナントレースの大勢が決まって観客動員数が減少する秋口に、勝ち上がりの優勝決定戦を作って観客を集めようという魂胆である。それによって優勝可能性が出てくる下位球団にとってはいい話である。これも大リーグへの有名選手流出によるプロ野球の人気低下の影響だが、取りあえずは3位以内を目ざそうということで、アンツには大いに希望が出てくる話であった。とはいえ、現実的には、昨年27勝115敗の(今後、数字などが出てくる場合に、前に書いた数字と違うとか言って、揚げ足取りをしないように。これはそういう話ではないのだ。)チームが、どうやれば3位になれるのか、雲を掴むような話ではあったが。

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