19 「雨のリズム」(「悲しき雨音」)
Rhythm of the rain
Listen to the rhythm of the falling rain
Telling me just what a fool I‘ve been
I wish that it would go
and let me crying in vain
And let me be alone again
(落ちてくる雨の
あのリズムを聴いてごらん
あれは、僕がどんなに馬鹿だったかを言っている
雨がどこかへ行ってしまって
僕をただ泣かせてほしい
僕をもう一度一人ぼっちにしてほしい)
* The only girl I care about
has gone away
Looking for a brand new start
But little does she know that
when she left that day
Along with her she took my heart
(僕の愛したたった一人の少女は去ってしまった
まったく新しい出発を求めて
でも彼女が去ったその日
彼女がほとんど知らなかったことは
彼女が僕の心を持っていってしまったことだ)
Rain please tell me now
does that seem fair
For her to steal my heart away
when she don‘t care
I can‘t love another
when my hearts somewhere far away
(雨よ教えてくれ
それはフェアなことだと思うかい
彼女は愛してもいないのに僕の心を持ち去って
僕の心が遠くにあるために
僕はもう誰をも愛せないなんて)
* リフレーン
私が中学生の頃のヒット曲である。その頃は歌詞の内容は漠然としか知らなかったが、甘悲しい憂鬱のイメージは、中学生の心にはぴったりの曲だった。歌はカスケーズというグループで、作詞作曲はジョン・ガンモー(とでも読むのだろう)。
今読むと、中々面白い歌詞で、もちろん、センチメンタルそのものではあるが、ポップスとはもともとセンチメンタルを良しとするものなのだから、それで良い。特に心の防御壁の薄い通常の青少年とセンチメンタルとは切り離せないのであり、センチメンタルでない青少年はニヒルな文学青年にでもなるしかないだろう。
中学生レベルの英文でもあるのだが、案外と訳し間違えそうなのが、第三連の最初の命令形で、呼びかけの「Rain」を、中学生あたりだと主語と勘違いする生徒が出てきそうである。英語解釈のコツの一つは、「挿入句」と「倒置法」に対して意識的になることだと私は思っている。ここでも、「Rain」の後にコンマがあれば話は簡単なのだが、コンマを頻繁に使うのは嫌われるのか、そのコンマが無いので、間違いやすい。この場合は、「please」があるために命令形であることが分かるが、たとえば「God save the queen」は「神は女王を救う」という平叙文ではなく、「God,save the queen」、つまり「神よ、女王を救い給え」という命令文、より適切に言えば祈願文なのである。
18 二度と恋には落ちないわ(「恋にさよなら」)
I‘ll never fall in love again
What do you get when you fall in love?
A guy with a pin to burst your bubble
That what you get for all your trouble
I‘ll never fall in love again
I‘ll never fall in love again
(恋に落ちたら何を得るの?
あなたの風船を破裂させるピンを持った男と恋をして
それがあなたのすべての骨折りの代わりに手に入れる物
私は二度と恋には落ちないわ
私は二度と恋などしない)
What do you get when you kiss a guy?
You get enough germs to catch pnewmonia
After you do,he‘ll never phone you
I‘ll never fall in love again
I‘ll never fall in love again
(男とキスをして何が得られるの?
肺炎になるのに十分な病原菌をたっぷり手に入れるだけ
その後では、男は電話すらかけてこないでしょう
私は二度と恋には落ちないわ
私は二度と恋などしない)
Don‘t tell me what it all about
Cause I‘ve been there and I’m out
Out of those chains,those chains
that bind you
That is ,why I‘m here to remind you
(恋がどんなものかなんて教えないで
なぜって、私はずっとそこにいて、抜け出したばかりなの
自分を縛り付ける、鎖から、鎖から、鎖から!
それが、私があなたに恋のくだらなさを教える理由)
What do you get when you fall in love
You only get lies and pain and sorrow
So for at least untill tomorrow
I‘ll never fall in love again
No,no,I‘ll never fall in love again
(恋をしたらどうなるの?
嘘と苦痛と悲しみが得られるだけ
だから、少なくとも明日までは
私は恋には落ちないわ
いいえ、いいえ、二度と恋には落ちないわ!)
ミュージカル「プロミセス・プロミセス」の挿入歌で、ハル・デイビッドの作詞、バート・バカラックの作曲、歌はディオンヌ・ワーウィックでヒットした。
言うまでもなく、この歌の洒落ているところは、恋をクソミソに言いながら、「少なくとも明日までは」恋などしないと言うところである。裏返しの恋の賛歌なのだが、そのユーモアが、実に楽しい。このパターンは、前に書いた「何で馬鹿は恋をする?」に似ている。
訳の上では、「(恋の)鎖から抜け出て」云々の部分を意訳したが、同じフレーズの繰り返しが、私は日本語の詩としては気になるので、「鎖から、鎖から、鎖から」とそっけない繰り返しにしたというわけである。繰り返しを二度でなく三度にしたのも、ただの好みにすぎない。まあ、この訳が気に入らなければ、自分で訳せばいいだけである。
17 無引く無(「ナッシング・フロム・ナッシング」)
Nothing from nothing
Nothing from nothing leaves nothing
You gotta have something
if you wannna be with me
Nothing from nothing leaves nothing
You gotta have something
if you wannna be with me
(無から無を引けば無
もしも君が僕と一緒になれば
何かは得られるよ
無から無を引いても無
でも君が僕と一緒になれば
何かはきっと得られるんだ)
I‘m not trying to be your hero
‘Cause that zero
is too cold for me(Brr)
I‘m not trying to be your highness
‘Cause that minus
is too low to see(Yea)
(僕は君のヒーローにはなる気はないよ
だってゼロってのは僕には寒すぎるからね(ブルブルッ!)
僕は君の陛下(ハイネス)になる気もない
だってマイナスってのは、見るには低すぎるじゃないか(イエィ!))
Nothing from nothing leaves nothing
And I‘m not stuffing
believe you me
Don‘t you remember I told ya
I‘m a soldier
in the war of poverty
yeah,yes Iam
(無から無を引いても何も残らない
僕は君に自分を信じさせようとは思わないよ
君に言ったことを覚えていないかい
僕は貧困の戦いの戦士なのさ(イェイ! そうなんだぜ))
* 第一連リフレーン
You gotta have something
if you wanna be with me
You gotta bring me something girl
if you wanna be with me
(僕と一緒になれば
君も何かを得るさ
君と一緒になれば
僕にも何かが得られるはずさ)
ほとんど無名のポップスだが、私の好みで30撰の中に入れることにした。というのは、算数的表現をそのまま歌詞にしたところが面白くて、ユニークだからである。つまり、「2引く1は1」のような英語の算数表現が「1 from 2 leaves 1」だったと記憶しているが、それを「無から無を引く」と言うと、何やら哲学風味が出るところが面白い。だが、趣旨はやはり恋愛であり、貧乏な二人でも、一緒になればきっと楽しいよ、くらいの内容である。自分の貧乏さを「僕は貧困の戦いの戦士なんだ、イェイ!」などと言うところが、何とも能天気でいい。歌も軽快なリズムで楽しいし。
歌はビリー・プレストンという、アフロヘアで肥った黒人。○ノダ・ヒロみたいな感じのエネルギッシュで臭そうな男で、ユー・チューブで実物を見たらガッカリすることうけあいだ。
16 七つの水仙
Seven daffodils
I may not have a mansion
I haven‘t any land
Not even a paper dollar
to crincle in my hands
But I can show you morning
on a thousand hills
And kiss you and give you
seven daffodils
(私には豪邸もない
私には土地もない
手の中でカサカサと音を立てる1ドルのお金さえない
でも私はあなたに幾つもの丘の上の朝の姿を見せることができる
そしてあなたにキスをして七つの水仙をあげることができる)
I do not have a fortune
to buy you pretty things
But I can weave you moonbeams
for necklaces and rings
And I can show you morning
on a thousand hills
And kiss you and give you
seven daffodils
(私には財産がない
あなたにきれいな物を買うための財産が
でも私は月の光を織ってあなたにネックレスと指輪を作ることができる
そしてあなたに幾つもの丘の上で朝を見せることができる
そしてあなたにキスをして七つの水仙をあげることができる)
Oh seven golden daffodils
all shining in the sun
To light our way to evening
when our day is done
And I will give you music
and a crust of bread
And a pillow of
piny boughs to rest your head
And a pillow of
piny boughs to rest your head
(おお、七つの黄金の水仙よ
すべて朝日の中に輝き
一日が終わる夕暮れの時まで
私たちの道を照らしてくれる
そして一日が終わる時には
私はあなたに音楽を贈ろう
そしてわずかなパンを
そしてあなたが頭を休めるための松の葉の匂いのする枕を贈ろう
あなたが休むための松の匂いの枕を贈ろう)
ブラザース・フォーのフォークソングである。次の17番の「無引く無」もそうだが、アメリカンポップスには貧乏ソングとでもいうべき歌があって、「ぼろは着てても心の錦」というか、「武士は食わねど高楊枝」というか、心の気高さが大事だよ、と考える伝統がある。もちろん、そういうことを言うのは、女房や恋人に高価な贈り物や贅沢な生活を与えることのできない甲斐性の無い男に決まっているのだが、それはそれで金がすべての資本主義社会の一服の清涼剤ではある。女性の側がこうした歌を鼻で笑うのは言うまでもない。
次の「無引く無」や「道路の陽の当る側」と共に読むと一層面白いだろう。
15 白昼夢を信じる奴(「ディ・ドリーム・ビリーバー」)
Day dream believer
Oh,I could hide beneath the wings
of the bluebirds as she sings
The six o‘clock alarm would never ring
But it rings and I rise
wipe the sleep out of my eyes
My shaving razor‘s cold and it stings
(ああ、青い鳥が歌を歌う時に、その羽根の下に隠れられたらなあ!
六時のアラームはこれまで鳴ったことがなかったのに
そいつが鳴って、僕は起きる
眠りを目からこすり出して
僕の髭剃り用カミソリは冷たくてちくちくする)
* CHORUS
Cheer up,sleepy Jean
oh what can it mean
To a daydream believer
and a homecoming queen?
(元気を出せよ、眠そうな顔のジーンちゃん
現実という奴にはいったい何の意味があるだろう
白昼夢を信じる奴や
素に帰った女王様にとって)
You once thought of me
as a white knight on a steed
Now you know how happy I can be
Oh,and our good time starts and ends
With a dollar one to spend
But how much baby do we really need?
(きみはかつて僕を白馬の王子様と思っていた
今、僕がどんなに幸福になれるか君もわかっただろう
僕たちの幸せの時は、始まり、そして終わる
たった1ドルを使うだけでね
でも実際、僕らにどれだけのお金が必要なんだろうか?)
* CHORUS(しつこく繰り返して終わる)
ビートルズのパチモン、モンキーズのほとんど唯一のヒットだが、強烈な魅力のある歌である。そもそも、題名が抜群にいい。白昼夢が若さの代名詞であることを、この歌は教えているのだ。現実社会の正しいパースペクティブを持たない若者に与えられた特権が白昼夢を見る能力なのであり、だからこそ若者だけが常に新しい創造をするのである。
歌詞の中では「homecoming queen」の訳に悩んだが、これを同窓会での花形とか高校のブロムナイトの女王とする解釈は取らないことにした。というのは、次の連に、「白馬の王子様」が出てくるのだから、それとの対比を考えれば、これは本物の女王、ただし、家に帰り、普通の人間に戻った女王様だと解釈するほうがいい。
また、「sleepy Jean」とは何者か、「Oh、what can it mean」の「it」は何かも、さっぱり分からないのだが、こういうのは謎めかした魅力を出すためにわざとしていることもあるので、無駄に頭を悩ます必要はないだろう。とりあえず、「it」は「現実」だと強引に訳したが、他の解釈があるならそれでもいい。
面白いのは、女王や騎士(白馬の王子)を過去の夢としながら、では現実に生きるのかというと、そうではなく、今度は白昼夢に生きるのだという、この一種の開き直りである。
確かに、このくだらない現実で夢を実現するには金もかかるし、膨大な努力も要る。だが、白昼夢を見つつ生きるならば、それには一銭の金も要らないのである。(この歌では1ドルくらいは要るとしている。まあ、たとえば映画を見るとか、漫画雑誌を買うとかくらいの金額だろう)ただし、時には「あちら側の世界」に行ってしまうこともあるが。